SAPが描く人事DXとは?教育の一部をAIが担う
はじめに
SAPを使った人事領域の業務といえば、給与や福利厚生、配属の管理が一般的です。
一方で、SAPはここ数年で人事領域の機能拡張を進めており、AIによる自動化も始まっています。
日本ではあまり使われていませんが、人事領域はAIの恩恵が大きいのだとか。
今回は、SAPが描く人事DXについて紹介します。
1.中央集権的な人事から事業会社ごとの独立した人事へ
日本では伝統的に「本社の人事部が定めた制度を、支社・事業所・部門が運用する」という中央集権的な人事制度が採用されてきました。
この制度自体は人事の一貫性や平等性を担保していたため、決して悪いものではありません。
しかし、事業会社ごとの戦略設計が多様化していく場合、画一的な人事制度は適用しづらいケースが出てきます。
人事制度は、そのとき企業が求める人材を定着させ、成長を促すための大切なプロトコルです。
同一の親会社の傘下にある事業会社Aと事業会社Bが、全く異なる戦略を描いているにもかかわらず、人事制度が硬直的であれば、優れた人材が評価されないことになってしまいます。
こうした従来型の人事制度の欠陥を補うために、人事制度の独立を認めている企業も増えているようです。
1-1.事業会社ごとに独自の人事制度を運用
具体的な事例として、国内のある電子機器メーカーの取り組み事例を紹介します。
同社は親会社の組織変更に伴い新しい人材マネジメントを導入しました。
その背景には、「事業会社ごとに独自の人事制度を採用する」という変更がありました。
それまでは、本社の人事部門が全社一律の人事制度を作り、各事業部門はその制度の運用に集中していました。
これは多くの伝統的な日本企業が採用していた方法論です。
一方、組織変更後は、各事業会社が人事制度や報酬体系の策定、採用活動などを独自に策定・運用するようになったとのこと。
大枠は以下のとおりです。
・人事戦略の最上段(指針、スローガン)は本社が決定する
・具体的な人事戦略については権限を各事業会社に委譲
各事業会社に人事の実務を委譲した形ですね。
現場レベルで適切な人材獲得、評価の制度を行うため、人事にかかわる人材が増えたようです。
これを受けて、人事業務をサポートするAIの活用が進みました。
また、良質なデータを蓄積しつつ、データの標準化やスピードの向上も図られるようになったのだとか。
さらに、人事部門のデータを活用するために、日常業務のデータ化、業務プロセスの標準化や自動化、グローバル標準との比較が進んだそうです。
2.SAPでも進む人事のAI化
SAPでも人事に関して独自の改革を行っています。
具体的には、グローバル化に伴って各国に分散していた人事を統合しています。
SAPはもともと、国ごとに個別のマネジメントを行っていました。
しかし人事部門のグローバル化が求められ、2000年代初頭にHRサービスのシェアドサービス化を進めました。
シェアドサービス化(Shared Services)とは、企業内の複数の部門やグループが共通して利用する業務やサービスをひとつのユニットに集約し、効率的に管理・運営する仕組みです。
「人事センター」や「財務センター」といった呼び方になることが多いですね。
今ではSAPの主要製品になった「Success Factors」を買収し、これを活用して世界中の人材管理を1つのプラットフォームで統合しました。
その結果、職域の構造や、報酬制度などがグローバルで統一されたとのこと。
2018年以降は、社員やマネージャーの問い合わせにシェアドサービスが対応する「HRサービスモデル」へと進化しました。
現在のHRサービスは給与計算や証明書発行といった基本機能に加え、キャリアコーチング、職場での紛争解決、チームパフォーマンスの向上、昇給昇格サポート、従業員の行動改善のコンサルティングなど、多岐にわたる機能を提供しています。
さらに、HR領域におけるDXの一環として、AIの活用にも積極的に取り組んでいます。
蓄積されたデータを機械学習AI、生成AI、会話型AIに取り込んで、教育・採用・問い合わせ対応などに活用しています。
要は、従来型の日本企業がやっていた人事業務の大半をパッケージングして社内サービス化し、さらにAIによって自動化していくという流れですね。
前述の日本企業と逆の流れのように感じますが、根底は同じだと思います。
日本では「人事の個別最適を進めるために分散した」のですが、SAPでは「個別最適を進めるためにシステムを統合した」のです。
どちらも、根底にあるのは人事制度の個別最適です。
3.人事DXの流れはSAP人材にとってチャンスかもしれない
HR領域におけるAI活用の流れは、今後さらに大きくなると思います。
そもそもHR領域は属人性が強く、採用・評価・配置転換、コーチングといった「1:1」の要素を持つ業務はシステム化されてこなかったのです。
しかし、その背景には定量的なデータが存在しており、実際には自動化が可能な分野でした。
日本のSAP業界においてもHR領域の案件が増えてくるかもしれません。
海外ではすでに中途採用面接にもAIの導入が進んでいて、最終面接以外はすべて「リモートでPCかスマホに向かって話す」という例も登場しています。
今後はこうした人事システムを構築する企業が増え、それにともなってHR領域のシステム開発がブームになるかもしれません。
我々SAP人材にとっては、HR領域でスキルを磨く土壌ができそうです。