SAPの導入方法論 「SAP Activate」とは?
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はじめに
SAP S/4HANAがリリースされたのは2015年のこと。
すでにリリースから10年が経過しようとしています。
SAPは多種多様なツール/サービスを市場に投入してきました。
その中心となっているのは依然としてS/4HANAであり、レガシーからS/4 HANAへの移行を全面的に推奨しています。
一方、ユーザー側からはレガシーシステムへの愛着・使い勝手・移行のリスクなどが挙げられており、これを解消する方法が求められました。
そこで登場したのが今回紹介する「SAP Activate(SAP アクティベート)」です。
今回は近年徐々に知られるようになったSAPの導入フレームワーク「SAP Activate」について解説します。
1.SAP Activateの概要とメリット
「SAP Activate」とは、端的に言えば「SAPが推奨するプロジェクト運営のベストプラクティス」です。
2024年現在、SAPの提供する製品ラインナップは以前にも増して多様になりました。
ユーザーが自社のシステムにSAP S/4HANAを適用するために何が必要でどうすればよいのかを判断するコストが跳ね上がっています。
同時に、プロジェクトも複雑になり、その運営コストが無視できないほどに膨れ上がりました。
こうした種々のコストを削減し、スムーズな導入を実現するために生まれたのが「SAP Activate」です。
1-1.「SAP Activate」の要素
SAP Activate は、SAP 製品の導入や移行を効率的に進めるためのモダンなフレームワークです。
特に、クラウドおよびオンプレミスの環境におけるSAPソリューションの更新を支援するために設計されています。
SAP Activateの要素は主に以下3つです。
・メソドロジー(方法論)
SAP Activate の中心的な要素は、導入プロジェクトのライフサイクルをサポートするプロジェクト管理の方法論です。さまざまな導入タイプに対応しており、主に次のフェーズから構成されています。
Prepare(準備) : プロジェクトの計画と基礎的な準備を行うフェーズ。プロジェクトチームの結成やロードマップの準備を行います。
Explore(探索) : SAP の標準機能やプラクティスを確認し、どのようにカスタマイズするかの調査を行う段階ですね。可能性を探るという意味で「探索」なのだと思います。
Realize(実現) : 設定やカスタマイズ、そしてテストを行います。システムを要件に合わせて調整し、プロトタイプを作成するフェーズです。いわゆる開発とテストフェーズを指しています。
Deploy(展開) : システムを本番環境に移行し、運用を開始する段階です。最後にユーザー教育や運用サポートが含まれます。本番への移送適用やUATなどが含まれるフェーズですね。
Run(運用) : システムの安定稼働や継続的な改善を行うフェーズです。
ただし、注意しておきたいことが1点あります。
SAP Activateのメソドロジーは基本的に「アジャイル」だという点。
なので、それぞれのフェーズで反復と修正を繰り返すことが前提になりそうです。
この点はメソドロジーだけを見ると想起できないので、注意しておきましょう。
・SAPベストプラクティス(SAPベストプラクティス)
SAP Activate には、SAP 製品を迅速に効率的に導入するための業界別のベストプラクティスが含まれています。
具体的には、標準化されたプロセスフローや設定ガイド、サンプルデータなどが含まれており、プロジェクトの速やかな開始とリスクの軽減を支援します。
・ツール
SAP Activate では、プロジェクトを効率管理するためのツール群が提供されています。
このツール群は、特にクラウドベースの導入やアップグレードに関して設定の自動化やテスト管理、変更管理をサポートします。
例えば、SAP Cloud ALM(Application Lifecycle Management)や SAP Solution Manager などですね。
1-2.SAP Activate のメリット
以下は、SAP Activateの主なメリットです。
・アジャイルと反復型アプローチによる早期移行
SAP Activateはアジャイル手法に基づいています。
ウォーターフォールのように重厚長大ではなく、修正・改善を小刻みに繰り返しながら早期移行を実現できるため、移行プロセスの短縮が進むでしょう。
・事前に構成済みのコンテンツを活用しコスト削減
SAP Activate は、事前に構成済みのコンテンツやテンプレート、ベストプラクティスを提供し、導入を加速させます。
時間と労力を削減が強みの一つです。
・プロジェクト内のコミュニケーションを効率化
プロジェクトチームや業務担当者、クライアントのIT部門などの利害関係者間のコミュニケーションを促進し、マイグレーションジャーニー全体を通じて、整合性を保ちます。
よくある「どのフェーズでだれがボールを持っているかわからない」といった事態の発生を防ぐ意味もあるようです。
・持続的イノベーション
SAP Activateは、SAPの新しい技術の導入をサポートします。
SAPが提供するフレームワークで導入を進めるならば、という条件付きですが、新技術のサポートが受けられるのは心強いです。
・柔軟性が高い
オンプレミス、クラウド、もしくはハイブリッドの導入計画に対応可能です。
クラウド移行だけに限定されていると勘違いされがちですが、S/4HANAにはオンプレ版もありますから、オンプレ/クラウド問わず対応するようですね。
また、近年増えているハイブリッド型の導入にも適用可能です。
・Grow with SAPでは標準採用される
SAP Activateは、SAP S/4HANAの導入やアップグレード、クラウドへの移行を目指す企業にとって強力なフレームワークとなっており、特に「Grow with SAP」プログラムにおいては、中小企業が迅速かつ効率的にSAPソリューションを導入するために重要な役割を果たしています。
2.SAP Activateの使いにくいところ、デメリット
あまり聞きませんが、SAP Activateにもデメリットはあるようです。
2-1.プロジェクトフェーズを自由に変更できない
日本のITプロジェクトは、プロジェクトオーナーの都合によってフェーズが変更されることがあります。
開発フェーズが終わった後に再度要件定義をしたり、テストフェーズから開発フェーズに巻き戻ったりします。
また、マイグレーションでは様々な事情からタスクが入れ替わります。
よく言えば柔軟、悪く言えば炎上回避の苦肉の策ですが、SAP Activateを活用するとこういったフェーズの入れ替えは難しいかもしれません。
SAPとの相談次第だとは思いますが、SAPがサポートを提供するのは、あくまでもSAP Activateに従った場合です。
それ以外のケースがどう判断されるかは未知数なので、この点は注意が必要ですね。
2-2.そもそも日本のERPにアジャイルが適合しにくいという点
SAP ERPの導入経験がある方ならなんとなく想像がつくかと思いますが、そもそもERPの導入とアジャイルは親和性が低いです。
アジャイルは、要件の変更を前提としつつ、設計・開発・テストを繰り返して製品をリリース可能な状態まで持っていくアプローチです。
Webアプリケーションのように業務システムから明確に切り離された部分では非常にスムーズな開発が可能になります。
ところが基幹業務に深く入り込んでいるERPのようなシステムでは、アジャイルの良さが活かせないことが間々あるのです。
特にSAPではウォーターフォール型のプロジェクトのほうが安定すると思います。
ERPのような大規模なシステムでこれを行うと、スコープが何度もずれますし、そのたびに上流の膨大な工程をやり直す必要があるわけで、無駄が多く発生するのではないかという疑問があります。
もちろん、SAPが提唱するフレームワークなので適合可能なように勧められますが、日本では「アジャイルでERPを入れる」というノウハウ自体が広まっていないので、この点で不安がありますね。
まとめ
今回はSAPの導入・マイグレーションフレームワークであるSAP Activateについて解説しました。
日本国内での活用事例はあまり多くありませんが、プロジェクト運営のスタンダードとして徐々に浸透する可能性はあります。
我々SAP人材も、日本流のウォーターフォールから抜け出し、SAP Activateにフィットすべき時が来るのかもしれませんね。