SAP Business AIとは?SAPが描くAI戦略
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【コラム監修者 プロフィール】
クラウドコンサルティング代表取締役 岸仲篤史
新卒でSAPジャパン株式会社に入社。
SAPジャパン在籍中にCOコンサルとして従事したことで、会計コンサルの面白さに目覚め、
大和証券SMBC株式会社 投資銀行部門、新日本有限責任監査法人、アビームコンサルティングにて、
一貫して約10年間、会計金融畑のプロフェッショナルファームにてキャリアを積む。
その後、2017年クラウドコンサルティング株式会社を設立し、SAPフリーランス向けSAP free lanceJobsを運営し、コラムの監修を手掛ける。
https://www.facebook.com/atsushi.kishinaka#
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はじめに
Chat GPTをはじめとしたAIサービスがいよいよ普及期を迎えようとしています。
個人向けサービスとしてのAIに加え、企業向け、つまりビジネスAIが次々に登場している状況です。
これまで生成AIは「固有要件が多すぎる日本企業には向かない」と言われることもありました。
しかし近年は、企業内部の情報資産を取り込んで業務に活かすRAG(検索拡張生成)の登場など、ビジネス向けAIが進化しています。
SAPでもビジネスAIとして「SAP Business AI」をリリース。2025年に向けてビジネスAIの利用が一気に拡大しそうです。
1.SAP Business AIとは?
SAP Business AIは、企業の業務プロセスにAIを統合し、効率化と革新を推進するための包括的なソリューションとして位置づけられています。
これまでのビジネスAIは、どちらかといえば「単一のタスクを自動化する」という目的が多かったのですが、SAP Business AIはより広範囲に、かつ業務横断型でAIを活用しようという意図が見えます。
SAP Business AIは4つの柱で成り立っており、以下のように特徴があります。
1-1. AIコパイロット「Joule(ジュール)」
Jouleは、SAPのAIコパイロットとして、ユーザーが自然言語での対話を通じて業務を遂行できるよう支援します。
複数の自律型AIエージェントが組み込まれており、複雑なワークフローの完了やタスクの自動化をサポートします。
JouleはSAP Business AIの目玉ともいえるAIアシスタントツールです。
詳細は後述しますが、ユーザーが持つデータのみならず、SAPが蓄積してきた導入・運用方法をベースにしたサポートが可能です。
1-2. 組み込みAI機能
SAPの各種SaaSソリューションに生成AIの機能が直接組み込まれており、ユーザーは追加の設定や統合作業を行うことなく、AIの利点を活用できます。
これにより、業務プロセスの自動化やデータ分析の高度化が実現し、ビジネス全体の効率性が向上します。
イメージ的には、従来の「モジュール」と呼ばれていたような機能群の中に、AIが組み込まれた、と考えてよいでしょう。
1-3. AI Foundation-
AI Foundationは、ユーザーやパートナーがSAPのAI機能をカスタマイズし、独自のAIエンジンやモデルを開発・展開できるプラットフォームです。
企業固有のニーズや業界特有の要件に対応したAIソリューションの構築が可能となります。
AIを自社の要件に従ってカスタマイズできるため、協力会社との連携を取りつつ、システム全体に適用できるようなAIの使い方が可能です。
AI Foundationでは、Generative AI Hubにより、複数のLLMを活用できる機能を搭載していま
1-4. AI機能提供における連携パートナー
さらにSAPは、AI分野の先進的な企業や技術提供者と連携し、最新のAI技術やソリューションをSAP Business AIに統合しています。これにより、ユーザーは常に最先端のAI機能を利用でき、ビジネスの競争優位性を維持・強化することができます。
これらの構成要素により、SAP Business AIは企業のデジタルトランスフォーメーションを強力に支援し、業務の効率化、意思決定の迅速化、そして新たなビジネス価値の創出を促進します。
2.SAP SAP Business AIの目玉「Joule(ジュール)」
次に、SAP Business AIの中でも特に注目されている機能がAIコパイロット「Joule(ジュール)」を見ていきましょう。
JouleはSAPの操作体験を革新するAIアシスタントであり、従来のUIや操作感を大きく進化させる存在です。
これまでのSAPシステムは、使いにくさや古い印象が指摘されることもありましたが、Jouleの登場により、自然言語を使った直感的な操作が可能になります。
ユーザーは、画面上の複雑なメニュー操作に頼る必要がなく、「このデータを分析して」や「最新の売上レポートを表示して」といった形で、簡単に指示を出せるようになります。
これにより、業務効率が向上し、利用者の負担が大幅に軽減されます。
2-1.Jouleでできること
・自然言語での対話型AI
Jouleの最も注目すべき特徴は、「自然言語を活用してユーザーと対話できる」点です。
例えば、複雑な検索条件を設定する代わりに「2024年12月の売上予測を教えて」と質問すれば、即座に答えを得ることができます。
これにより、SAPの専門家でなくとも、瞬時にシステムから情報を引き出すことができます。
トランザクションやレポートの操作が必要なくなるので、SAPが提供する価値をダイレクトに受け取りやすくなりました。
・シナリオに応じた生成AIエンジンの使い分け
Jouleは、タスクやシナリオに応じて最適な生成AIエンジン(LLM: 大規模言語モデル)を選択して利用します。
ユーザーは常に最適化された回答や支援を受けられ、業務の質が向上します。
複数のLLMから最適なものを選択できるので、LLMの「出来」に左右されないAI環境を構築できます。
・SAPアプリケーションとのシームレスな統合
Jouleは、SAPの主要アプリケーションと密接に連携しています。
SAP S/4HANA Cloud private edition、SAP Integrated Business Planning、SAP Integration Suiteなどに対応予定で、
ビジネスコネクタを通じてバックエンドのデータやプロセスに簡単にアクセス可能です。
・将来の広範な対応
今後は、SAP Ariba、SAP Concur、SAP Signavio、SAP Build Appsなど、さらに多くのSAP製品との連携が予定されています。
これにより、企業全体の幅広い業務プロセスでJouleを活用できるようになり、統合性と利便性がさらに向上します。
・2025年には「コンサルタント」「開発者」の知見も利用可能に
2025年には、Jouleによって導入コンサルタントや開発者の知見が提供されるというアナウンスもありました。
どの程度のサポートが得られるのかは未知数ですが、導入・開発・運用フェーズで利便性が増すことは間違いないでしょう。
あくまでも仮説ですが、インハウスでの開発や運用がかなり楽になるかもしれません。
3.Jouleのもたらす未来
JouleをはじめとするSAP Business AI全体のシナリオ数は、2024年時点で80個以上です。
ちなみに、Joule in SAP SuccessFactorsでは、利用可能なシナリオがすでに約30個あるとこのと。
また、BTPへの適用も進んでいます。
Jouleに自動化の要件やシナリオを問いかけると、定義済みコンテンツから、適切なものを自動提案する機能「Joule for SAP Build Process Automation」が利用されます。
さらに、Jouleを活用した自然言語での指示でチャートやダッシュボードの作成、分析やシミュレーションを実行する「Joule for SAP Analytics Cloud」の提供も始まりました。
Jouleは、単なるツールではなく、ユーザーアシスタントとしてSAPの操作環境を劇的に変える存在です。
業務フローはより簡潔で効率的になり、企業のデジタルトランスフォーメーションを加速します。
また、生成AIエンジンの柔軟な活用と高度な統合機能を備えたJouleは、SAPの利用価値を一層引き上げ、企業の競争力を強化するキーとなるでしょう。
まとめ
今回はSAP Business AIと主要機能であるJouleについて紹介しました。
いよいよERPの世界にも本格的にビジネスAIが普及しようとしています。
我々SAP人材は、AIと競合するというよりも「AI活用を前提としたスキル」を磨いていかなくてはなりませんね。