SAPと主要クラウドプラットフォームの連携についてAWS、Azure、Google Cloud Platform
—————————————-
【コラム監修者 プロフィール】
クラウドコンサルティング代表取締役 岸仲篤史
新卒でSAPジャパン株式会社に入社。
SAPジャパン在籍中にCOコンサルとして従事したことで、会計コンサルの面白さに目覚め、
大和証券SMBC株式会社 投資銀行部門、新日本有限責任監査法人、アビームコンサルティングにて、
一貫して約10年間、会計金融畑のプロフェッショナルファームにてキャリアを積む。
その後、2017年クラウドコンサルティング株式会社を設立し、SAPフリーランス向けSAP free lanceJobsを運営し、コラムの監修を手掛ける。
https://www.facebook.com/atsushi.kishinaka#
X
—————————————-
INDEX LINK
はじめに
SAPはエンタープライズ向けの業務アプリケーションにおいて長年の実績を持っています。
かつてはオンプレミス向けが主流でしたが、現在ではクラウド化が進んでおり、主要なクラウドプロバイダであるAWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformとの連携が可能になりました。
それぞれのクラウドプラットフォームは異なる特長を持ちながら、SAPとの親和性が高いサービスやツールを提供しており、企業のデジタルトランスフォーメーションを支える重要な基盤となっています。
ここでは、SAPと主要なクラウドプラットフォームの連携について解説します。
1. AWSとSAPの連携
AWS(Amazon Web Services)は、SAPのクラウド移行と運用において最も広く採用されているプラットフォームの一つです。
その理由の一つが、AWSが提供するスケーラブルで高性能なインフラストラクチャとSAP専用の機能的サポートです。
1-1.AWSの特長とSAPへの適用例
AWSの強力なインフラとサービスは、SAPシステムの高可用性、スケーラビリティ、そしてパフォーマンスを求める企業にとって理想的な選択肢となります。
・高いスケーラビリティとパフォーマンス
AWSは、EC2インスタンスやAmazon Elastic Block Store(EBS)などのサービスを活用して、SAP HANAやSAP S/4HANAをスムーズに実行します。
特に、メモリ集約型の計算やトランザクション処理でその真価を発揮します。
・SAP専用の認定インフラ
AWSは、SAP HANAやSAP NetWeaverなどの主要なSAPアプリケーションに対する認定インフラを提供しており、企業はAWS上でSAPシステムを安全かつ効率的に運用できます。
・高度なデータ分析機能
AWSの分析ツール(例: Amazon Redshift、Amazon EMR)を活用することで、SAPの業務データを深く分析し、新たな洞察を得ることが可能です。
・グローバル展開の柔軟性
AWSは広範なリージョン展開を行っており、SAPシステムを世界中で、かつ迅速に稼働させられます。
グローバル企業が他国の市場を狙って迅速にビジネス基盤を整えたい場合などに有利ですね。
2. AzureとSAPの連携
Microsoft Azureは、SAPのクラウド基盤としての人気が高く、特にハイブリッドクラウドの提供に強みがあります。
Azureは、SAPと緊密に協力しており、SAPシステムを運用するための最適な環境を提供しています。
2-1.Azureの特長とSAPへの適用例
Azureは、MicrosoftのエコシステムとSAPを結びつけることで、企業が既存のIT資産を最大限に活用しつつ、SAPシステムの柔軟な運用を可能にします。
・Azure for SAP Workloads
Microsoftは「Azure for SAP Workloads」と呼ばれる専用プログラムを提供しており、SAP S/4HANAやSAP BW/4HANAなどのSAPシステムがAzure上で最適に動作するように設計されています。
・高度な統合性
Azure Active Directoryを利用して、SAPシステムのユーザー管理を効率化したり、Microsoft TeamsやPower BIと連携して業務データを可視化・分析したりすることが可能です。
・ハイブリッドクラウド環境の提供
Azure Stackを活用することで、オンプレミス環境とクラウド環境をシームレスに統合し、特に規制の厳しい業界での柔軟なSAPシステム運用を実現します。
・インフラの最適化
Azureは、SAPのために特化された仮想マシンサイズ(例: SAP HANA Large Instances)を提供しており、メモリ集約型アプリケーションを効率的に実行できます。
3. Google Cloud Platform とSAPの連携
Google Cloud Platform Platformは、AIやデータ分析分野における強みを活かし、SAPシステムに対して洞察と効率性を提供します。
特にデータ分析や機械学習の活用を視野に入れた企業にとって、Google Cloud Platformは魅力的な選択肢です。
3-1.Google Cloud Platform の特長とSAPへの適用例
Google Cloud Platformは、AIとビッグデータ分析のリーダーシップを活かし、SAPユーザーに新たな可能性を提供するプラットフォームです。
・AIと機械学習の活用
Google Cloud PlatformのAIプラットフォームを利用することで、SAPシステムのデータをもとに高度な予測分析や自動化が可能になります。
たとえば、Google Cloud Platform AutoMLを使用して需要予測モデルを構築することができます。
・データ分析の高度化
BigQueryをSAPデータと連携させることで、リアルタイムのデータクエリと大規模なデータ分析を迅速に実行できます。
これにより、経営層が必要な洞察を短時間で得ることが可能です。
・ハイブリッドおよびマルチクラウド対応
Anthosを活用して、オンプレミス環境や他のクラウドプロバイダ上にあるSAPシステムを一元管理できます。
これにより、クラウド間の相互運用性が向上します。
・高いセキュリティ基準
Google Cloud Platformは、セキュリティとプライバシー保護に注力しており、SAPシステムのデータを確実に保護します。
4.SAPと主要クラウドプラットフォームの選択基準
SAP S/4HANAをクラウド上で展開する際、どのクラウドプラットフォームを選択するかは、企業の業務要件やIT戦略に大きく依存します。
選択基準として、以下の点に注目していきましょう。
4-1.業務要件に応じたパフォーマンスの最適化
SAPシステムは、大量のトランザクション処理やデータ分析をリアルタイムで行うため、高いパフォーマンスが求められます。
AWSは、広範なコンピューティングオプション(例: SAP HANAに最適化されたインスタンス)を提供し、高スケーラビリティが必要なワークロードに適しています。
メモリ集約型のインスタンスも豊富で、リアルタイムデータ処理を行うSAP HANAに適しています。
Azureでは、SAP HANA Large Instancesと呼ばれる特定の仮想マシンサイズが提供されており、SAP S/4HANA向けに最適化されています。
特に、SAPがAzureを主要パートナーとして推奨している点も注目されています。
Google Cloud Platformは、超高速ネットワークインフラとストレージのオプションを備えており、リアルタイムデータ分析を必要とするビジネスシナリオに適しています。
4-2.既存のITシステムとの統合性
多くの企業は、既存のITシステムとの統合性を重要視します。
AWSは、多様なサードパーティツールとの統合が容易で、SAP以外のシステムとも柔軟に連携できます。
マルチクラウド戦略を採用する企業に向いているかもしれません。
Azureは、Microsoft 365(旧Office 365)やTeamsなどのMicrosoft製品とのシームレスな連携が強みです。
また、SAP S/4HANAとPower BIを統合することで、データ分析の効率性を向上させることが可能です。
Google Cloud Platformは、Google Workspaceとの親和性が高く、SAPデータをBigQueryと統合することで、Googleの分析ツールを活用した高度なデータインサイトが得られます。
4-3.セキュリティと規制対応
SAPシステムを運用する上で、データのセキュリティやコンプライアンス対応も選定基準の一つです。
AWSは、ISO 27001やSOC 2などの主要なセキュリティ認証を保持しており、データ保護とプライバシーの分野で高い評価を受けています。
Azureは、GDPRやHIPAAなどの規制対応が強化されており、特にヘルスケアや金融業界での利用に適しています。
Google Cloud Platformは、セキュリティファーストを掲げており、エンドツーエンドの暗号化や詳細なアクセス制御を提供しています。
また、SAPと連携したデータセキュリティのガイドラインも用意されています。
4-4.コストとTCO(総所有コスト)のバランス
クラウド移行や運用にかかるコストも、選択時の重要なポイントです。
AWSは、従量課金制で、使用したリソースに対してだけ費用が発生するため、柔軟なコスト管理が可能です。
ただし、使用状況によってはコストが増加する場合もあるため、計画的な利用が必要です。
Azureは、企業向けのコスト最適化ツールが提供されており、Microsoft製品をすでに使用している場合は割引が適用されることがあります。
Google Cloud Platformは、コスト競争力に優れており、長期間の利用で割引が適用される「持続利用割引」など、TCO削減を支援する仕組みがあります。
4-5.グローバル展開の柔軟性
多国籍企業にとっては、グローバルなインフラ展開能力も選定基準になります。
AWSは、世界中に広がるリージョンとアベイラビリティゾーンを持ち、迅速な市場展開が可能です。特に、アジア太平洋地域での展開が強力です。
Azureもグローバルなリージョンカバレッジを持ち、地域ごとの規制対応にも優れています。特に、ヨーロッパ市場での信頼性が高いです。
Google Cloud Platformは、ネットワークのパフォーマンスが高く、データ転送速度を重視する企業に適しています。特にAI/ML関連のワークロードでのグローバル展開に強みがあります。
4-6.AIや機械学習との親和性
次世代のSAPシステムは、AIや機械学習を活用して業務効率を向上させる傾向にあります。
AWSは、Amazon SageMakerなどのAI/MLサービスを活用し、SAPデータを元に高度な予測モデルを構築することができます。
Azureは、Azure Machine Learningを利用して、SAPデータを分析し、業務改善のための予測モデルを作成できます。Microsoft製品との統合で、AI活用がしやすい環境を提供しています。
Google Cloud Platformは、GoogleのAI技術を活用して、SAPシステムにリアルタイムでインテリジェンスを加えることが可能です。
特に、BigQuery MLやAutoMLを使った予測分析が注目されています。
4-7.選択基準を踏まえた最適なプラットフォームの選択
SAPシステムのクラウド基盤を選定する際には、上記の観点を総合的に評価して選ぶことが重要です。
たとえば、グローバル展開を重視するならばAWS、高い統合性を求める場合はAzure、高度なデータ分析を活用する場合はGoogle Cloud Platformが適しているでしょう。
まとめ
SAPは、AWS、Azure、Google Cloud Platformといった主要クラウドプロバイダと連携することで、柔軟かつ効率的に運用できる環境を提供しています。
それぞれのプラットフォームには、スケーラビリティ、統合性、データ分析といった特有の強みがあります。
SAP人材が直接関与する例は稀かもしれませんが、各プラットフォームとの相性について、大枠を把握しておきたいところですね。