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RISE with SAPとは? ECC6.0経験者が知っておくべき基礎知識とキャリア活用法

 

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【コラム監修者 プロフィール】

佐京正則

 

大学卒業後、新卒で国内のベンチャー企業に入社。

その後、約11年間、外資系企業や国内のインフラ関連企業にてSAP ERPの導入、開発、運用までを経験。

経験モジュールはSD、MM、FI。

2015年よりライターとして活動を開始。

IT製品の導入にまつわる企業課題、エンタープライズIT製品に関するコンテンツの執筆、ホワイトペーパー作成などを手掛ける。

また、CRM/ERPベンダーに対して顧客導入事例の作成支援なども提供。

ビジネス課題と企業向けITが結びついたコンテンツを得意とする。

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はじめに

SAP業界では、ECC6.0を中心としたプロジェクトに従事されていた方が多いと思います。

今後もSAP業界で活躍するために、まずはS/4 HANAを中心としたクラウドソリューション群へのキャッチアップをおすすめします。

特に注目すべきは、SAP社が打ち出している2つのソリューション“RISE with SAP”と”GROW with SAP”です。

これらはSAP S/4 HANAを中心としたクラウド移行をスムーズに実現する包括的なソリューションとなっています。

今回は中堅~大手企業向けの”RISE with SAP”に焦点を当て、概要や構成要素、GROW with SAPとの違い、キャリアアップのために必要な視点などを解説します。

 

 

 

1. Rise with SAPとは何か?|従来のERPとの違い

冒頭でも述べたように、SAP社は企業のDXやクラウド移行を支援する包括的なソリューション群、「Rise with SAP」と「Grow with SAP」を提供しています。

このうち、中堅以上の比較的大規模なシステム移行を想定しているのが「Rise with SAP」です。

 

 

1-1.RISE with SAPの概要

Rise with SAPは複数のソリューションの集合体です。SAP S/4 HANAのクラウド版である「SAP S/4 HANA cloud Private Edition」を据え、外部連携基盤であるBTPなどの周辺機能などがセットで提供されます。

また、SAP社が標榜する新しい企業のありかた「Intelligent EnterPrise(インテリジェントエンタープライズ)」への道しるべとしても活用できます。

 

出典:SAP JAPAN 新しいクラウド ERP(RISE with SAP )解説動画

https://www.youtube.com/watch?v=iyGC_qrRDtI

 

 

1-2.RISE with SAPの特徴

もう少し具体的にRISE with SAPの特徴を見ていきましょう。

 

①「SAP S/4 HANA Cloud Private Edition」がコア

RISE with SAPの中心は、S/4 HANAのクラウド版である「SAP S/4 HANA Cloud Private Edition」です。

S/4 HANA Cloudでは「Private Edition」と「Public Edition」という2つのエディションが提供されています。

2つのエディションの特徴は以下のとおりです。

 

・S/4 HANA Cloud Private Edition

プライベートクラウド型のソリューションで、クローズドなネットワークかつシングルテナント型のプラットフォームを採用しています。

独自テナントによってデータの分離が保たれていることが特徴です。

 

また、データセンター内に設けた自社専用のインフラや、AWS、Azure、Google Cloud Platform(GCP)といったメジャーなIaaSの活用も可能です。

さらにABAPによるクラシック拡張が可能なことから、移行前のレガシーシステムで構築したアドオン資産を組み入れることもできます。

ここで言うクラシック拡張とは、オンプレミス環境で行っていたABAPによる拡張開発のことです。

オンプレミス型と遜色のない拡張性を持ちながらクラウド環境へ移行したい、という要望に適しています。

 

ちなみにPrivate EditionはSaaSではなく、「クラウド上に自社専用のシステムを構築するモデル」です。

 

・SAP S/4HANA Cloud Public Edition

Public Editionは、いわゆるパブリッククラウドの特徴(マルチテナント、オープンネットワーク)を活用しています。

Private Edition とは異なり、SaaSとして提供されるモデルです。

インフラ構築の手間とコストを削減しつつ、標準機能を主体とした拡張でクラウド移行を進めたいという企業に適しています。

 

ただし2024年以降は、拡張方法が拡大されたため、以前よりも柔軟性が増しています。

安価でスピーディーな導入が可能なPublic Editionが人気を集めたことから、拡張方法の選択肢にテコ入れを行ったようです。

 

②「旧環境」のデータやアドオン資産を引き継げる

RISE with SAPでは、膨大なビジネスロジックが蓄積されたレガシーシステムの付加価値をクラウドに引き上げることができます。

具体的には、

 

・SAP ECC6.0の過年度データを引きつげる

・旧環境で構築したアドオンのロジックを継続利用できる

 

などが可能となっています。

これらは「コンバージョン」「選択的データ移行」で実現され、Grow with SAPでは原則として提供されません。

 

 

1-3.GROW With SAPとの違い

RISE with SAP もGROW with SAPも「S/4 HANA Cloud」をコアとしたクラウド移行のためのソリューション群という点は同じです。

一方で、個別に内容を見ていくと、インフラの構築方法やアップデートサイクル、ターゲット企業の規模、拡張方法、導入パターンなどの違いがあります。

以下の表は2者の違いをまとめたものです。

 

RISE with SAPは「S/4 HANA Cloud Private Edition」、GROW with SAPは「S/4 HANA Public Edithion」をコアとしている点で異なります。

また、Rise With SAPは既存顧客/中~大企業向けで、なおかつ独自性を重視したシステム構築に適しています。

一方のGROW with SAPは新規顧客/小~中堅企業向けで、標準機能を主軸とした比較的簡易な導入が適していると言えるでしょう。

 

 

 

2. RISE with SAPの技術的な構成要素

続いて、RISE with SAPを構成するサービス、ソリューションを個別に見ていきましょう。

 

 

2-1.S/4 HANA Cloud Private Edition

前述のとおり、S/4 HANAのクラウド版「S/4 HANA Cloud」のプライベートクラウド版です。こちらについては説明済みですので割愛します。

 

 

2-2.インフラ及び運用のサービス

RISE with SAPでは、インフラストラクチャ(IaaS)と運用管理(マネージドサービス)が一体化した形で提供されます。

労力とエンジニアリソースが要求されるインフラ運用を外部化できるため、ユーザー企業は自社業務に専念できます。

 

・AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどのクラウドプラットフォーム基盤の提供

・OSやデータベースの運用・保守

・SAPアプリケーションの運用・保守

・SAPがセキュリティパッチの適用やバージョンアップを行い、最新の状態を維持

・システムの監視、バックアップ、障害時のリカバリなど、包括的な運用サービスを提供

 

 

2-3.BTP(Business Technology Platform)

BTPは「SAP製品を拡張・連携・分析・自動化するためのクラウド型プラットフォーム」です。

具体的には、以下4つの主要領域をカバーしています。

 

・アプリケーション開発・拡張

・データ管理と統合(ERPだけでなく、他社システムやIoTデータも一元管理)

・分析、予測(売上や生産性のリアルタイム分析、予測)

・自動化(チャットボットや、RPAのような業務自動化)

 

BTPはS/4 HANAの標準機能をクリーンに保つ「クリーンコア戦略」の観点からも非常に重要です。

クリーンコアに沿うことで、バージョンアップのたびに膨大な検証や再開発が必要となり、保守コストやシステムリスクが跳ね上がることを防ぎます。

従来ならERP内部に作り込んでいた独自機能の大半はBTP上で開発し、外付けするのが基本となっていくでしょう。

さらに、社内外の他システムとのデータ連携についても、BTPを使って接続するという流れがトレンドになりつつあります。

 

 

2-4.SAP Business Network

SAP Business Networkは、企業間の取引や協業を支援するネットワークです。

調達、物流、資産管理などの業務を外部パートナーと連携して進めることができます。

 

SAP Business Networkは、一言でいうと「企業と企業をつなぐ巨大な経済圏」のようなものです。

サプライヤー、物流パートナー、設備メーカーなど、あらゆるビジネスパートナーとのやりとりをオンラインに集約し、管理・最適化できる仕組みです。

たとえば、製造業の企業が新しい部品を調達する場合、個別に取引先を探し、見積もりを取り、納期や価格を交渉し、書類をやり取りする必要があります。

しかしSAP Business Networkを活用すると、世界中の認定サプライヤーにアクセスし、リアルタイムで在庫や納期の情報を確認し、そのまま発注に進めるわけです。

また、注文後の配送状況や検収、支払いまでがすべてネットワーク上で完結します。

 

 

2-5.Sustainability

RISE with SAPは、企業のサステナビリティ目標達成を支援するソリューションです。

環境負荷の可視化やESG(環境・社会・ガバナンス)対応を強化し、持続可能な経営を促進します。

 

・SAP Sustainability Footprint Management

製品やサービスの環境負荷を定量的に測定し、改善策を立案します。

 

・SAP Sustainability Control Tower

サステナビリティに関するKPIをリアルタイムで可視化し、戦略的な意思決定を支援します。

 

・グリーン元帳の導入によるCO₂排出量の管理

財務データと環境データを統合し、CO₂排出量の管理と報告を効率化します。

 

 

2-6.Joule(AIアシスタント)

Jouleは、SAPが提供する生成AIベースのビジネスアシスタントです。

近年、SAPが注力している機能であり、RISE with SAPでも目玉のひとつとされています。

 

Joule(ジュール)は単なるチャットボットではありません。

これまでコンサルタントや開発者が現場で培ってきた業務プロセスの知識やシステム設計の知見が、あらかじめ組み込まれています。

業務上の課題を指摘すると、単なるデータ抽出ではなく、プロセス全体を踏まえた改善提案まで行ってくれます。

また、必要に応じて拡張や連携の可能性も示唆するなど、開発者視点の柔軟な発想も取り込まれています。

これからは、Jouleをどう使いこなし、組み込まれた知見を現場に活かしていくかが重要になっていきます。

 

・自然言語によるユーザーインターフェース

ユーザーは自然言語でJouleと対話し、必要な情報を迅速に取得できます。

 

・業務データに基づくインサイトの提供

SAPシステム内のデータを分析し、業務に関する洞察を提供します。

 

・タスクの自動化と推奨アクションの提示

定型業務の自動化や、次に取るべきアクションの提案を行います。

 

 

2-7SAP Cloud ALM

SAP Cloud ALMは、SAPソリューションの導入から運用までを支援するアプリケーションライフサイクル管理ツールです。

RISE with SAPでは、プロジェクトの計画、実行、監視を一元的に管理できます。

 

・プロジェクトの計画と進捗管理

SAP Activateメソドロジーに基づき、導入プロジェクトの計画と進捗を管理します。

 

・ビジネスプロセスの監視と最適化

業務プロセスのパフォーマンスを監視し、改善点を特定します。

 

・システムの健全性とパフォーマンスの監視

システムの稼働状況やパフォーマンスをリアルタイムで監視し、問題の早期発見と対応を支援します。

 

・問題の早期検出と対応

アラート機能により、システムの異常を即座に検知し、迅速な対応が可能です。

 

 

 

3. なぜ今、RISE with SAPが注目されているのか?

近年、大企業を中心に「RISE with SAP」の導入が加速しています。

ここではその理由を簡単に整理してみましょう。

まず挙げられるのが「基幹システムのクラウド化が一般化したこと」です。

SAP社の公式発表でも、今後ERPシステムはクラウド化が主流になると明言されており、S/4 HANA Cloudを中心としたクラウド戦略が推進されています。

 

また、SAPは「スイートファースト(Suite First)」「AIファースト(AI First)」を掲げています。端的に言えば「ERPの中核機能と周辺領域を一体化・高度化」「AIや自動化を組み入れる」といった方針です。

前述の解説からもわかるように、RISE with SAPはこの戦略に沿った構成となっています。

 

さらに、「ユーザーの選択、意思決定の手間とリスクを省く」という点でも評価されています。

RISE with SAPではERP本体に加え、外部開発・連携環境やインフラがパッケージ化されているため、個別要素を一つずつ選定・構築する手間が不要です。

また、パッケージとして整合性が確保されているため、連携トラブルや不整合リスクを個別に管理する必要もありません。

 

「費用はかかるが、低リスクで労力が小さく、ある程度の保証がとれた組み合わせをすぐに使えること」が、RISE with SAPの強みであり、注目される理由なのです。

 

 

 

4. フリーランスとしてRise with SAPにどう向き合うべきか?

フリーランスとしてキャリアを築くなら、今後「RISE with SAP」への理解と対応力が不可欠になります。

まず押さえるべきは、SAP S/4HANA、特にCloud版への深い理解です。

単なる機能の知識だけでなく、クラウド特有の導入・運用モデルを把握しておく必要があります。

 

さらに、SAP Business Technology Platform(BTP)やSAP Business Network、そしてAIアシスタントであるJouleの活用パターンへの理解も重要です。

今後はERP導入支援だけでなく、BTPを使ったシステム拡張の提案や、Business Networkを活用したバリューチェーン最適化支援など、付加価値の高い支援が求められる可能性が高いです。

 

現状、RISE with SAPは大企業向けプロジェクトでの採用が中心です。

しかし、今後は中堅企業にも広がり、案件数は確実に増えて行くと考えられます。

BTPやクラウド運用への対応力は、実際のRISE with SAPプロジェクトに参加して初めて体得できるものです。

 

ECC6.0までの経験を最大限に活かすためにも、実践を通じたキャッチアップが急務です。

フリーランスとしての市場価値を高めるためにも、RISE with SAP案件へ積極的にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

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