S4 HANAに移行したのに処理速度が遅い原因は「NonCode Pushdown」かもしれない
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【コラム監修者 プロフィール】
クラウドコンサルティング代表取締役 岸仲篤史
新卒でSAPジャパン株式会社に入社。
SAPジャパン在籍中にCOコンサルとして従事したことで、会計コンサルの面白さに目覚め、
大和証券SMBC株式会社 投資銀行部門、新日本有限責任監査法人、アビームコンサルティングにて、
一貫して約10年間、会計金融畑のプロフェッショナルファームにてキャリアを積む。
その後、2017年クラウドコンサルティング株式会社を設立し、SAPフリーランス向けSAP free lanceJobsを運営し、コラムの監修を手掛ける。
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はじめに
SAP S/4HANAに移行を終えた後でも、特定の処理が遅い、思ったほどパフォーマンスが向上しないといった問題が発生することがあります。
その原因の一つとして考えられるのが「Non-Code Pushdown（ノンコードプッシュダウン）」です。
本記事では、S/4HANA環境におけるNon-Code PushdownとCode Pushdownの違いを明確にし、S/4HANAのパフォーマンスを最大限に引き出すための実装について紹介します。
1.S/4HANAに移行したのに処理速度が遅い原因
SAP S/4HANAへ移行すると、インメモリデータベース（SAP HANA）の高速処理が活用できるため、システム全体のパフォーマンス向上を期待しますよね。
しかし、実際にS/4HANAへ移行した後、「処理速度が思ったほど改善されない」「特定のトランザクションが遅い」といった問題に直面するケースがあります。
この原因の一つとして考えられるのが、「Non-Code Pushdown（ノンコードプッシュダウン）」です。
これは、アプリケーションレイヤー（ABAPプログラム）側でデータ処理を行ってしまい、SAP HANAのデータ処理能力を十分に活かせていない状態を指します。
従来のSAP ERPでは、ABAPサーバー（アプリケーションレイヤー）でデータ処理を行うのが一般的でした。
しかし、S/4HANAではデータベースレイヤー（SAP HANA）で処理を行う「Code Pushdown（コードプッシュダウン）」が推奨されています。
もしS/4HANAへ移行した後も、従来のABAPプログラムをそのまま使用し、データ処理をアプリケーション層で行っている場合、Non-Code Pushdownによるパフォーマンス低下が発生する可能性があります。
2.Code PushdownとNon-Code Pushdown
Code PushdownとNon-Code Pushdownの違いは、データ処理の実行場所がアプリケーション層（ABAPサーバー）か、データベース層（SAP HANA）かという点にあります。
2-1.Non-Code Pushdown（ノンコードプッシュダウン）とは？
Non-Code Pushdownとは、ABAPプログラム内でデータ処理を行う実装方法です。
従来のSAP ERPでは、データをデータベースから取得し、その後ABAPプログラム内で集計やフィルタリング、計算などの処理を実行する方法が一般的でした。
しかし、すべてのデータを一度ABAPサーバーに取得し、そこでフィルタリングや集計を行う場合、アプリケーション層に過剰な負荷がかかります。
一方で、DBへの負荷はあまりかかりません。
つまりSAP HANAのインメモリ処理の利点を十分に活かせず、パフォーマンスが低下してしまう可能性があるのです。
2-2.Code Pushdown（コードプッシュダウン）とは？
これに対してCode Pushdownとは、データ処理の大部分をSAP HANAのデータベース層で実行するように最適化する手法です。
データ転送量を削減し、HANAの並列処理やカラムストアの特性を活用して、高速なデータ処理を実現できます。
Code Pushdownを実装する方法として、以下のような技術が活用されます。
・CDS（Core Data Services）ビュー: データベースレイヤーで複雑な集計や結合を行う
・AMDP（ABAP Managed Database Procedures）: SQLScriptを使用し、HANA側でロジックを処理
・SQLの最適化（Open SQLの活用）: WHERE句やJOINを適切に利用し、不要なデータ転送を減らす
大量の受注データを処理する場合ならば、ABAPでデータを取得する前に、CDSビューを使用して事前にフィルタリングや集計をHANA上で実行します。
こうすることで、ABAPサーバーの負荷を大幅に軽減できます。
つまり、S/4HANAの本来の高速処理能力を活かすためには、コードの書き方を見直し、Code Pushdownを適用することが不可欠なのです。
将来的にS/4（つまりSAP HANA）にシステム構成を移行しても、同じ設計（Non-Code Pushdown）のままでは処理速度が改善される可能性は低いのです。
3.Code Pushdownで実装するとどのくらい速くなるのか
Code Pushdownを適用することで、処理時間が大幅に短縮されることが確認されています。
ここでは具体的なパフォーマンス改善の事例を紹介します。
3-1.事例①: 受注データの集計処理
ある企業では、SAP ERP（ECC）からS/4HANAへ移行したものの、受注データの集計処理が依然として遅いという課題がありました。
従来のABAPプログラムでは、全件データをSELECTで取得し、ABAPサーバー側でフィルタリングや集計を実施していました。
このプログラムをCDSビューを活用したCode Pushdownに変更したところ、処理時間が30秒から2秒に短縮されました。
この大幅な改善は、不要なデータ転送を削減し、SAP HANAの並列処理を活用した結果です。
3-2.事例②: 請求データのフィルタリング処理
別の企業では、請求データの検索処理において、ABAPサーバー側で大量のデータを取得した後、フィルタリングを実施していました。
この処理を、Open SQLのWHERE句を適切に活用し、データ取得時点で必要なデータのみを選別するように修正したところ、処理時間が10秒から0.5秒に短縮されました。
3-3.事例③: AMDPを活用した大規模データ処理
財務データの大規模な計算処理をABAPで実装していた企業が、SAP HANAのSQLScriptを活用したAMDPに切り替えたところ、従来のABAPプログラムの10倍以上のパフォーマンス向上を実現しました。
特に、数百万件以上のデータを扱う処理では、Code Pushdownの効果が顕著に現れます。
まとめ
S/4HANAへ移行したにもかかわらず、処理速度が遅い場合、その原因の一つとして「Non-Code Pushdown」が考えられます。
一方、Code Pushdownを適用することで、SAP HANAのインメモリ処理、カラムストアの最適化、並列処理の活用が可能になり、大幅なパフォーマンス改善が期待できます。
SAPの最新環境を最大限に活かすためには、単なるS/4HANAへの移行だけでなく、ABAPプログラムの最適化を進めることが不可欠です。
Code Pushdownの技術を習得し、より高性能なSAPシステムの構築を目指していきましょう。
