SAPはこの先も“食える”のか?将来性・スキル・キャリアのリアルを徹底解説
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コラム監修:佐京正則
大学卒業後、新卒で国内のベンチャー企業に入社。
その後、約11年間、外資系企業や国内のインフラ関連企業にてSAP ERPの導入、開発、運用までを経験。
経験モジュールはSD、MM、FI。
2015年よりライターとして活動を開始。
IT製品の導入にまつわる企業課題、エンタープライズIT製品に関するコンテンツの執筆、ホワイトペーパー作成などを手掛ける。
また、CRM/ERPベンダーに対して顧客導入事例の作成支援なども提供。
ビジネス課題と企業向けITが結びついたコンテンツを得意とする。
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はじめに
世の中は着実にS/4 HANAへと移行しつつあります。
SAP自体もクラウドやAIといった新たな領域に舵を切っています。
こうした変化のなかで「自分のスキルはこの先も通用するのか」「SAPという選択肢をこのまま信じていいのか」と、将来への不安を感じる場面が増えているようです。
今回はSAPとSAP人材の将来性について、業界の動きや技術の変化を含めながら解説していきます。
1.SAPの将来性はあるのか?
SAPに長年携わってきた人材の間では、定期的に「SAPは将来性が微妙だよね」といった話題が出ます。
確かにSAPは日本に上陸してから30年以上が経過していて、決して新しいソリューションではありません。
しかし、将来性という点に関しては、明確に「ある」と言えます。
そこでまずはSAP自体の将来性を整理してみましょう。
1-1.圧倒的な実績と代替のしにくさ
SAPは、業種業態を問わず、グローバルで24万社以上に導入されています。
製造、物流、金融、公共といった多種多様な業種が含まれ、単一ベンダーとしては類を見ない規模です。
また、長年にわたる運用実績により「顧客企業の業務がSAPに最適化されている」ことも見逃せません。
特にグローバルに事業を展開する企業にとっては、現地法対応や多通貨・多言語対応を含めた業務基盤が実現できるため、「代替しにくいインフラ」と言えます。
実際に他のSaaS製品へ簡単にリプレースできない「ロックイン構造」が形成されており、ベンダーとしての安定性を支える大きな要因となっています。
このロックイン構造は日本国内でも効いており、「国産パッケージへの置き換えよりもSAP ERPを更新したほうが安い」という事例が散見されます。
1-2.ECCサポート終了とS/4HANA移行の加速
SAP ERPの旧バージョンであるECC 6.0は、2027年に保守サポートが終了する予定です。
これをきっかけに、国内でもS/4HANAへの移行が本格化しています。
SAP insiderの調査(2024年)によれば、すでにS/4HANAへ移行済みの企業は約3割、さらに移行中・検討中の企業を含めると8割を超えています。
特に2025年以降は移行の集中時期に入ると予測されており、システムの再設計や業務プロセスの見直しも含めて需要が集中しそうです。
今後数年間は、S/4 HANA関連の需要が堅調に続くと考えて良いでしょう。
1-3.クラウド戦略と「RISE with SAP」による裾野の拡大
SAPは近年、クラウド対応を重視した事業モデルへとシフトしています。
なかでも「RISE with SAP」は、S/4HANAをサブスクリプション型で提供するサービスであり、これまで導入が難しかった中小企業でも利用しやすくなりました。
欧州企業を対象とした調査では、RISE with SAPを導入済み、または導入を検討中の企業が5割近くに上っており、前年から大幅に増加しています。
ガートナーの最新レポートでもS/4 HANA CloudはクラウドERPのリーダーに位置付けられており、会計・人事・生産などの業務を一体型で運用できるERPとして評価されています。
他のSaaS製品はどうしても単一でカバーできる範囲が狭く、業務横断型のソリューションになりにくいのが実情です。
一方のSAPは、統合性の高い業務基盤としての強みを持ち、複雑な業務環境にも対応可能な点が強みです。
1-4.業績は堅調に推移し存在感は揺るがず
業績の面でもSAPは好調です。
2025年第1四半期には、クラウド事業の売上が前年同期比で約27%増加し、契約残高は182億ユーロに達しているとのこと。
営業利益も上方修正されており、ライセンス販売からサブスクリプションモデルへの移行が順調であることを示しています。
「将来性がない=将来的に失速するのでは?」という懸念は、現時点であまり意味がないと考えて良いでしょう。
1-5.AI・サステナビリティ領域との連携と進化
SAPは生成AIやESG領域への対応も積極的に進めています。
AIアシスタント「Joule」は、すでに会計・調達・サプライチェーン管理など幅広い分野で活用されており、2025年末には400以上の業務機能に対応する見込みです。
また、サステナビリティ対応では、「SAP Sustainability Control Tower」などの製品を通じて、CO₂排出量やサプライチェーン上の環境リスクを可視化する仕組みを提供しています。
さらに、SaaSベンダーの買収を通じて業務分析(Signavio)、プロセスマイニング(LeanIX)、ユーザー操作支援(WalkMe)といった機能も獲得しました。
これらは、外部連携基盤であるBTP(Business Technology Platform)への統合が進んでいます。
このように従来の“統合型ERP”から“拡張可能な業務プラットフォーム”へと進化しつつある点も、将来性を証明する要素と言えそうです。
2.SAP人材の将来性に変化はあるのか?
SAP自体の将来性を確認したところで、本題である「SAP人材の将来性」についても見ていきましょう。
SAP領域で長く活躍してきた方の中には、「自分はSAPしかできないのでは」と不安を感じる方も少なくありません。
特にECC6.0時代を長く経験した人材は、独自言語であるABAPを中心とした開発スキルやSAP特有の設計に慣れてしまっているため、「汎用性」の面で不安を抱える方が多いようです。
しかし、SAP関連のプロジェクトで培われるスキルは、想像以上に応用が利きます。
2-1.汎用性は意外と高い
SAP関連プロジェクトでの経験は、他のERPや業務システムにも応用可能です。
なぜなら、SAP関連プロジェクトで必要とされるスキルは「業務の構造を理解し、仕組みを再設計すること」だからです。
現場の業務を深く理解したうえでITに落とし込む力は、BtoB IT業界で生きるものにとっての必須スキルですよね。
また、ベンダー調整やチームマネジメントなど、大規模プロジェクトにおける実践的な経験は、IT業界全体で通用する資産と言えるでしょう。
「開発一本で、マネジメント経験がない」という方もそれほど心配はいらないと思います。
最近では前述のSAP BTPやクラウド基盤との連携が進んでおり、JavaScriptやAPIの知識を活かす場面が増えています。
SAP以外の技術と組み合わせて動けるエンジニアへの需要は、むしろ高まりを見せています。
2-2.エンジニア・コンサルタント、それぞれの将来性
エンジニアであれば、S/4HANAのクラウド対応やBTPの活用など、新しい技術領域への対応力が鍵になります。
オンプレミスからクラウドへの移行が進み、周辺技術への理解やAPI連携の実装などが求められる機会が増えるでしょう。
こうした動きに適応できるエンジニアは、今後も高いニーズが期待されます。
コンサルタントにおいては、業務変革を伴う提案型の案件が増加しています。
S/4 HANAへの移行において、業務フローや部門間の役割まで見直すプロジェクトが一般化しているためです。
従来の業務知識に加え、AIやESG、他のSaaSソリューションとの連携といった新しい視点も求められています。
そもそもSAPの案件は難易度が高く、この程度の知識の補強は何度もこなしてきた人材が大半だと思います。
「新しいものを吸収する」という心構えさえ忘れなければ、自身の将来性を担保することは十分に可能です。
内部リンク:SAP コンサル 将来性
https://free-sap-consultant.com/news/2024/10/10/17910/
3.SAP S/4 HANAへ対応することが将来性を担保する
では具体的に何を学べばよいのか?という点をもう少し掘り下げます。
S/4 HANAには、ECC6.0にいくつかの技術的変化を加えた製品です。
代表格であるインメモリデータベース「HANA」がよく知られていますが、変更点はこれだけではありません。
まず設計思想として「シンプル化」が重視されており、複雑なテーブル構造や冗長なプロセスが見直されています。
さらにUIはSAP GUIからFioriへと刷新され、より直感的でモバイル対応にも優れた操作環境となりました。
こうした背景から、実務で求められるスキルも変化しています。
以下はECC6.0とS/4 HANAでの技術的な変化と、必要とされるスキルの差をまとめた表です。
| 項目 | ECC6.0 | S/4 HANA | 主な変化・補足 |
| UI | SAP GUI | SAP Fiori | モダンで直感的なUI、モバイル対応 |
| DB基盤 | 任意のRDBMS(Oracle等) | HANA(インメモリDB) | データ処理の高速化、DB設計の簡素化 |
| 設計思想 | モジュール単位、複雑で冗長な構造 | シンプル化、プロセス統合 | 重複排除、リアルタイム性重視 |
| データモデル | 多テーブル構成(集計テーブルあり) | 単純化されたデータモデル(集計テーブル排除) | CDSビューでの集計処理が基本 |
| 分析機能 | BW等の別システム利用が前提 | OLTPとOLAPの統合、リアルタイム分析 | HANA Live/Embedded Analyticsの活用 |
| 開発言語 | ABAP(従来) | ABAP for HANA | パフォーマンス最適化の構文が必要 |
| 在庫確認 | ATP(在庫確認) | aATP(高度な可用性確認) | 需要と供給の最適化アルゴリズムを内包 |
| 求められるスキル例 | IDoc/BAPI/ABAP | Fiori設計、CDSビュー、aATP、ABAP for HANA | UI・DB・分析・プロセスすべてに対応が必要 |
このようにECC6.0での経験だけでは将来性を担保しづらく、学び直しの必要性が高まっています。
4.この先に備えて、いま何を学び、どう動くべきか
ここで改めて、「自身の将来性を少しでも高める」ための行動をまとめてみます。
特に目新しい内容ではないと思いますが、この機会にもう一度整理してみてはいかがでしょうか。
4-1.キャッチアップの具体的ステップ
まずは社内での学びです。SAPはアップデートが頻繁にあるため、社内の勉強会やナレッジ共有の場があれば積極的に参加しましょう。
また、S/4 HANAやBTPなど関する資料や研修動画を視聴し、理解を深めて基礎力を鍛えましょう。
ただし、SAPはその性質上、実機環境で学習する機会が限られています。
そのため、必要に応じて外部研修も視野にいれるべきです。
SAPが公式に実施するトレーニングや、認定パートナーによるセミナーを受けることで、専門性を体系的に磨けます。
スキル研鑽については、下記の記事でも紹介しています。
内部リンク:https://free-sap-consultant.com/news/2024/01/18/17719/
新しい領域に参入するためには、「準備していること」を見せる姿勢が大切です。
ABAP→Eclipseベースの開発環境への対応、SAP GUIからFioriへの対応など、差分を学んでおくことで説得力が生まれます。
さらに、資格取得を目指して勉強することも効果的です。
「今さら資格?」と思うかもしれません。
しかし、資格取得はゴールが明確な上に、実務で得た「まばらで繋がりが薄い知識」を統合する手段として、非常に有効です。
たとえば「SAP Certified Application Associate – S/4HANA Cloud」などの資格を取得すると、一定の技術水準を客観的に証明する材料になります。
新しいプロジェクトに参加する際にも、相手方の心証はぐっと良くなるでしょう。
4-2.SAPを活かす人脈と情報源
次に、人脈と情報収集です。SAP技術者同士の交流ができるコミュニティに参加すると、最新トレンドや実践ノウハウを得やすくなります。
ユーザーグループの勉強会やSlack、Facebookの非公開グループでの交流は貴重な情報源になります。
加えて、国内外のイベントやカンファレンスにも目を向けてみてください。
他社の取り組みからSAP業界の動きを俯瞰できるため、自身のキャリアを見直すきっかけになります。
さらに、ビジネス系のSNS(LinkedInなど)でSAP関連のキーパーソンをフォローしておく方法もおすすめです。
アナウンスやノウハウをリアルタイムでキャッチできるでしょう。
4-3.案件情報を常にキャッチする
さらに重要なのが「案件情報をキャッチするルート」を持つことです。
SAPに強いエージェントを選び、担当者と密なコミュニケーションを取りましょう。
今後出てきそうなS/4関連案件の予兆を教えてもらえることがあります。
SAP関連プロジェクトは非常に忙しく、現役で活躍している人材は「案件情報のキャッチ」が難しくなります。
信頼できる案件情報の供給源は、ぜひとも確保しておきたいところです。
5.SAP人材としての将来性は“仕事の選び方次第”
SAP業界のクライアントは「技術も業務もわかる人材」を好む傾向があります。
ECC6.0プロジェクトで培った業務知識やユーザー部門との折衝経験は、強みとして前面に出しましょう。
例え技術的に満たない部分があっても “橋渡し役”になることができれば非常に重宝されます。
特に既存のアドオン資産の置き換えや以降などは、人手不足で参入しやすい傾向があります。
S/4 HANAの経験が浅い方でも、S/4 HANAプロジェクトに巻き込まれるチャンスは十分あるわけです。
必要なのは「専門性と学習能力、意欲を見える形で提示すること」と、「案件の芽を拾える体制づくり」です。
このことを忘れずに「SAP人材としての将来性」を高めていきましょう。