【5分でわかる】新機能解説 SAP S/4 HANA
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【コラム監修者 プロフィール】
クラウドコンサルティング代表取締役 岸仲篤史
新卒でSAPジャパン株式会社に入社。
SAPジャパン在籍中にCOコンサルとして従事したことで、会計コンサルの面白さに目覚め、
大和証券SMBC株式会社 投資銀行部門、新日本有限責任監査法人、アビームコンサルティングにて、
一貫して約10年間、会計金融畑のプロフェッショナルファームにてキャリアを積む。
その後、2017年クラウドコンサルティング株式会社を設立し、SAPフリーランス向けSAP free lanceJobsを運営し、コラムの監修を手掛ける。
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1.はじめに
日本国内でSAP ERPを導入している企業は2,000社を超えると言われています。
また、最新のERPソリューションである「SAP S/4 HANA」の導入実績も堅調に伸びているとのこと。
SAP ERP 6.0(ECC6.0)の保守サポートが数年後に迫った今、SAP S/4 HANAへの移行を検討している企業も少なくないはずです。
そこで今回は、改めてSAP S/4 HANAの新機能の中から、特に注目すべきものを紹介します。
2.SAP S/4 HANAとは
SAP S/4 HANAは、SAP社が開発した新世代のリレーショナルインメモリデータベース「SAP HANA」を技術基盤としたERPソリューションです。
SAP HANAとSAP S/4 HANAを同一視する情報もありますが、この2つは全く別の製品です。
従来のSAP ERPはデータベースとして他社製品を採用することもありましたが、SAP S/4 HANAはインメモリデータベースであるSAP HANAの採用が前提となっています。
また、ECC6.0までのSAP ERPからアーキテクチャを変更し、よりシンプルで簡素なデータモデルへと進化しました。
このシンプルさとSAP HANAのもつ高速なデータ処理が、レスポンスの速さを生み出しています。
この他にもSAP S/4 HANAにはクラウド/オンプレミス両対応、MRP計算のリアルタイム化、作業の自動化といった新しい付加価値が含まれています。
それぞれ具体的に見ていきましょう。
3.SAP S/4 HANAの新機能一覧
3-1.カラムストア型のインメモリデータベース
SAP S/4 HANAが持つ最大の特長は「SAP HANA」をベースとした、カラム型のインメモリデータベースを採用している点です。
まず、インメモリデータベースについて簡単におさらいしておきましょう。
インメモリデータべースとは、メインメモリ(主記憶装置:RAM)上で処理を完結させるデータベースの総称です。
メインメモリに展開されたデータは、HDDやSSDといったストレージ内のデータよりも高速に処理されます。
データの変更・削除・追加といったさまざまな処理をメインメモリ上でデータ処理をすべてメインメモリ上で完結できるため、
オンディスクデータベース(SSDやHDDで読み書きを行う従来型データベース)に比べ、数百~数万倍の処理速度を実現できます。
一般的にメインメモリは揮発性メモリであり、電源供給が途絶えるとデータが消えてしまうという特性がありました。
しかし、インメモリデータベースでは電源供給が途絶えたタイミングでストレージへデータを保存するよう動くため、データの消失を回避することができます。
このようにメインメモリが持つデータ処理速度と、ストレージが持つデータ保持能力を併せ持つのが、インメモリデータベースの特徴です。
SAP HANAは、これら通常のインメモリデータベース技術に加え、「カラムストア型(列指向型)」を採用することでさらに処理速度を高めています。
一般的なデータベースは「行指向型」のものが多いと思います。
2者の違いはデータ処理の単位です。
列指向型は列単位、行指向型は行単位でデータ処理を行います。
行指向型は、任意の列のデータを取得したいとき、そのデータが属する行すべてのデータを処理対象とします。
これに対して列指向型は選択した列のデータのみを読み込むわけです。
したがって、「大量の行から少数の列のデータを探し出し、処理する」といった場合には、列指向型のデータベースのほうが圧倒的に速いのです。
また、列方向でデータを見ると、データ型も値も全く同じデータが連続することがあり、これらを圧縮することでデータ容量を削減することもできます。
このように「インメモリデータベース」「カラムストア型(列指向型)」というSAP HANAの特性が、SAP S/4 HANAの高速処理を支えているのです。
3-2.MRP計算のリアルタイム化
SAP S/4 HANAは、「ゼロレスポンスタイム」が売りの一つですが、MPR計算のリアルタイム化も見逃せません。
MRP(Manufacturing Resource Planning=資材所要量計画)はSAP ERPの機能としてこれまでも活用されてきましたが、
SAP S/4 HANAでは従来比で数倍の計算速度を実現しているとのことです。
この計算速度により、MRPのリアルタイム化も可能になっています。
リアルタイムなMRP分析は、市場動向やトレンドに応じた生産資源の調整を可能とするため、生産コストの圧縮や効率的な資源管理が進みます。
現代はVUCA時代と呼ばれるように、ビジネストレンドが目まぐるしく変化する時代です。
市場動向やトレンドに応じて素早く資源計画を調整するリアルタイムなMRPは、もはや必須といって良いほど重要な機能です。
3-3.受注登録の自動化
SAP S/4 HANAでは、受注登録作業の自動化も可能になっています。
具体的にはPDFやExcelなどのデータをアップロードすることで、自動で受注登録が完了する機能が追加されました。
特に注目すべきは「非構造化データ」からの自動受注登録です。
SAP S/4 HANAではアップロードされたPDF情報を機械学習で解析し、それをもとに受注データを自動で生成することができます。
この機能により「顧客から受け取ったPDFによる注文書を、RPAが自動でSAP S/4 HANAへ登録し、
受注登録が完了する」という業務プロセスが可能になります。
また、Excel登録についても、Excelアップロードでの受注登録機能が標準搭載されました。
従来のようにアドオン画面でのバッチインプットなどを行う必要がなくなったため、開発コストの圧縮に貢献すると考えられます。
3-4.新UIによる操作性の向上
SAP S/4 HANAのUIは、従来の「SAP GUI」から「SAP Fiori」へと変更されています。
SAP Fioriは、新UIフレームワーク「SAP UI5」によって作られた新世代のUIです。
SAP UI5はJavaScript・CSS・HTML5をベースとしており、マルチデバイスへの対応を想定してます。
そのため、SAP Fioriでは、PCはもちろんのこと、タブレットやスマートフォンからでもERPへのアクセスが可能です。
3-5.ユーザーロールに紐づくメニュー表示
SAP S/4 HANAでは、新メニューの採用によって作業性が向上しています。
具体的には、従来型のドリルダウン型メニュー表示から「ユーザーロールベースのメニュー表示」に変更されました。
ECC6.0まで採用されていた「SAP GUI」では、機能ベースの網羅的なメニュー配置が主体であり、
ドリルダウンしながら使いたいメニューを探していく必要がありました。
一方SAP Fioriでは、ユーザーロールに紐づいたメニューがあらかじめ表示されているため、ドリルダウンによって機能を探す必要がありません。
4.「2027年問題」に向けた動きとは
4-1.保守期限は2025年から2027年に
ECC6.0のサポート期限が2025/2027年に迫る今、SAP S/4 HANAへの移行を本格的に検討する企業が増えています。
すでにSAP ERP案件は増加傾向にあり、今後は本格的な需要増を迎える可能性が高いでしょう。
実際に、フリーランスSAPコンサルタント/エンジニアへの需要も増加傾向にあるようで、
スキルと経験を持つSAP ERP人材であれば、十分な報酬と貴重な経験を得られる環境ができつつあります。
4-2.需要増が見込まれるSAP HANA案件
クラウドファースト・クラウドネイティブが本格化するいま、クラウドベースのSAP S/4 HANAにまつわる経験は、キャリアアップのために必須です。
もし、高単価案件やSAP S/4 HANA導入プロジェクトへの参画をご希望であれば、ぜひお気軽にご登録・お問い合わせください。
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①「S4 HANAでクラウド化」No1.SAPのインフラはオンプレミスかクラウドか
https://free-sap-consultant.com/news/2022/09/02/16635/
②「S/4 HANAでクラウド化」No.14 S/4 HANAのクラウド化で失敗しないための知識まとめ
https://free-sap-consultant.com/news/2023/03/31/17462/
③鍋野敬一郎のSAPソリューション最新動向#24
【本記事の参考・参照・引用元】
・SAP S/4HANAの製品ページ